物理学は宇宙のような巨大なスケールから、素粒子のような目に見えないミクロなスケールまで取り扱える唯一の学問です。その中でも我々のグループでは、実際の物質をナノメートルスケール(10億分の1から100万分の1メートル)の長さまで小さくしたデバイスを作製します。このようなナノメートルスケールのデバイスを舞台とした物理学は、ナノ物理学もしくはナノスケール物性と呼ばれ、近年盛んに研究されています。
例えば、私が博士課程の学生だった頃には存在しないと思われていた、原子一枚のグラファイトであるグラフェンは、スコッチテープを用いることで簡便に作製できるだけでなく、貼り合わせる角度を変えることで、超伝導になることまで分かっています。また世の中の物質には、グラファイトと同様に原子層レベルに薄くできる系が多数あり、それらの組み合わせ次第、無限の可能性を秘めており、人工結晶系を創り出すことも可能です。
また電子には電荷の他に、スピンという磁気の源になる自由度があります。そのスピンの流れ(スピン流)を取り扱うスピントロニクスと呼ばれる分野もナノスケール物性の一種です。それはスピン流がナノスケールで減衰してしまうからで、逆にナノスケールのデバイスを作れば、物質中のスピンに敏感な測定を行うことができます。
我々のグループでは、これらナノスケールに特有の物性の探索、さらにはスピン流を用いたスピン物性の検出を目指して、研究を推進しています。
私のモットーは、年齢や学年に関係なく自由で活発な議論を行いながら、楽しく研究を進めることです。学部4年生にもなれば、すでに一般的な物理学を学んだ研究者の卵であり、経験の差こそあれ、若い力がこれまで誰も予測していなかった物理を発見することすらあり得ます。皆さんの自由な発想と意欲的な挑戦をいつでもお待ちしています。
新見 康洋